《私の本棚 第328》   令和5年8月28日 号

   聊斎志異より 「丁前溪 (ていぜんけい)」 
                    蒲松齢 作?著?

  怪異譚というよりも、少し変わった人・その世界にそんな人が居るのか?という類いの話です。
丁前溪という人は大変な富裕者で、心底、郭解 (前漢時代の人で、子供の頃は悪ガキだったが長じては大変な義侠人となった人) を慕っていました。あるとき役人が彼を捕らえようとしているとの情報を得ると、逃げてきました。ひどい雨に遭い安宿で休んでいましたが、なかなか止みません。宿の少年がいろいろと世話をしてくれ食事も十分なものだったので泊まることにしました。明くる朝自分の馬に餌をやってくれているのを見ると、その藁に違和感を覚えます。尋ねると、貧しくて飼い葉の藁が無いので女将さんが屋根を葺いてある茅を取ってきたと言います。丁は宿代をはずんでもらおうという口実であろうと考えて、多めのお代を渡しますが、女将さんは受け取りません。話しを聞くと、この夫婦の生き方に心を打たれました。それで宿を後にするとき、ご主人が帰ってこられたら閑な時にお越し下さいと告げて後にしました。
 何年も経ったひどい飢饉の年に、宿の夫婦が困窮極まっていたとき、丁の言葉を思い出した女将さんが、丁の所へ行ってみることを進めました。ご主人の楊が丁を訪問すると、初めは思い出せずにいた丁ですが、気づいた後のもてなしは大層なもので、身繕いや食事と酒、その上 楊の知らぬ間に宿へも食料・金子・召使いなどを贈っていたのです。その後楊は少し楽になって、賭け事の胴元をするような生活はせずに暮らしたということです。

 聊斎志異集録としては異色の話しですね。
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