《私の本棚 第188》   平成24年10月号

    「古事記」    稗田阿礼 誦習
              太安万侶 編纂 

 今から1300年前、天武天皇の命により着手、完成した古事記を元明天皇に献上したものと序に記載されている。国家の基礎が誕生する前は各地に力を持った部族が存在していた。それぞれの部族にはその王の権力を維持するためには色々な仕組みが必要だったが、シャーマン的要素をも持った 「語り部」 もその一つと考えられています。天才的頭脳を持った稗田阿礼は王権専属の語り部の末裔と考えられている。語り部は王権の系譜と歴史を語り継ぎ、その正統性を語り続けたものであろうとされている。
 古事記の三分の一は神々の物語で、神話の比重が大きい。これは語りとして神々の世界から当時の今上天皇へと繋がる由緒正しさを誦習したものであるためと考えられている。
 研究者でもない読者としては、素直に楽しんで読めれば良いと思います。中でも有名な神話は 「因幡の白兔」 でしょう。同じく有名な八岐大蛇 (やまたのおろち) 退治の後、オオクニヌシノミコト (大国主命) は八十人あまりの兄弟と共に稲羽のヤガミヒメを妻にしたいと思って求婚の旅に出かけます。オロチ退治をしたときにクシナダヒメを娶っていますから、最低でも二人目を欲したということでしょう。オオクニヌシノミコト (偉大なる王者で国を統一した最初の王者) には他に四つの名前があります。オホナムヂ (偉大なる大地の男神) ・アシハラノコヲ (地上世界の勇猛な男) ・ヤチホコ (沢山の武器を持つ神) ・ウツシクニタマ (国魂の意味で土地神) です。この辺りから次第に、天上の神から人間世界に移動するための準備でしょう。白兔のところではオホナムジとして活躍します。
旅の袋を担がされて卑しめられたオホナムジが現在の気高群の海岸に差し掛かると、先に行った八十余りの神々に欺されて苦しむ赤裸の兔に出遭います。聞いてやると、兔はオキの島に住んでいたのですが、こちらの国に渡りたいと思い、ワニの背中を利用して海を渡ろうと一計を案じます。しかし最後にばれて皮を剥ぎ取られました。治す方法を教えてやると言って八十余の神に欺されたのです。いきさつを聞いたオホナムジは正しく治す方法を教えてやりました。そこで、この兔 (実は神) はヤガミヒメにこの事実を伝えてオホナムジの妻になるように計らいます。

 子供の頃から絵本や何かで読んでお馴染みの話です。貴重な最古の書の一冊ですから一度は目を通すのも悪くはありません。オキの島は説があって、目と鼻の先にある沖の島という説と、隠岐の島という説がありますが、美保関から島前島後がすぐそこに見えることからすると、隠岐の島の方が良いように思います。また、ワニは鮫の事なのですが、中国地方へ行くと、お店で鮫の切り身をワニと呼んで売っている地域があります。
 
白兎海岸、沖の島、あんな本こんな本





白兎海岸と沖の島 
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