《私の本棚 第231》   平成28年2月号

     「ケルト民話集」  フィオナ・マクラウド 作 

 カズオ・イシグロ氏の 「日の名残」 と 「忘れられた巨人」 を読んで、伝説時代のイギリスをもう少し知りたいと思い、書棚に積んだままになっていた本書を開きました。当然のこと自然に吸い込まれるような内容ではなく、こういう伝説があるのだという発見でした。従って内容から何を感じたかというのではなく、解説を読んで、多少はイギリスの底辺に流れる文化の一端を垣間見ることができたような気がします。
 作者は19世紀末ケルト民族居住圏であるアイルランド、スコットランド、ウエールズなどに起こった土着文化復興運動の文芸分野において、最も感傷的、神秘的、病的であったと評されています。今日に於いては作者の名は軽蔑をもって口にされているとさえ書かれています。
 ケルト民族はローマのカエサルがブリテン島に遠征した時代に既に英国に住んでおり、北ヨーロッパから中東、インド洋の海域まで勢力を張っていたと言われています。しかし、ケルト民族と一口に言っても、ケルトよりも更に古い東洋系と思われるピクト、キムリック、ゲールなどが生活しており、ゲールは更にアイルランド系とスコットランド系に分かれており、言語や文化に無視し得ない差があるということです。スコットランドもアイルランドも古くから妖精の存在が信じられてきた土地で、伝説が根強く残っているそうです。 アイルランド・スコットランド・ウエールズなどのケルト圏では19世紀の末まで、民族意識はあっても愛国意識あるいは国家意識はなかったと言います。
 民話という切り口では理解し難い部分がありましたが、解説された文化の背景は 「日の名残」 や 「忘れられた巨人」 をより楽しむための教材にはなりました。 
葉ボタンに雪、あんな本こんな本




  葉ボタンと雪
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