《私の本棚 第309》 令和3年12月1日号
「大 地」 エミール・ゾラ 作
ルーゴン=マッカール叢書の第15巻、1887年発表。兵役除隊後の主人公ジャンがボース平野の農耕地帯に足を踏み入れる所から始まります。そこは広大な土地を所有す る農民も含めて生活をしています。ジャンは誰一人として血縁の無い土地で働く事になりましたが、あくまで通りすがりの
「よそ者」 でしかありません。 当時の相続制度と農民の土地に対する極めて強い思い入れと所有意識。牛馬と人手に頼る農作業。苦労の割に低い農業収入。更に現代の私からみれば余りにも乱れた男女関係や結婚制度とよそ者を排除する土地所有法・相続法、そういった生活慣習が底に強く流れていることを踏まえた上で読み進める必要があります。解説には第一次産業は50%近くであったと思われ、第二帝政期始まりのフランスは農耕社会によって支えられていたと記されています。 ジャンは命のやり取りをする戦場から解放されて、田園でなにがしかの休息を期待したのですが、そこは又別の意味での戦場でした。日本に於いても江戸時代は士農工商という身分制度があり、言葉の上では農民は武士の次に位置づけられていましたが実態は最下級であり虐げられる者達でした。 この作品には見渡す限りの平野で50㎞先まで自分の農地という表現が出てきます。日本に於いてはとんでもない広さなのですが、少なくとも当時のフランスでは結構あったのでしょう。もともと土地は領主のものであり農民は使用人でした。 ---日本も第二次世界大戦敗戦までは 「水飲み百姓」 とも言われて貧しい生活を強いられていました。敗戦後は農地解放が行われて小作地はただ同然で小作人に払い下げられました。その後昭和61年からのバブル景気で、払い下げられた農地を売却することで大金を手にする者(土地成金)が沢山生まれました。--- 農場主とその家族は朝から晩まで働き続けます。朝昼夜の食事は驚く程質素なものです。農機具がほぼ無い時代であり農業知識技術も進んでいませんから全ては大地と天候任せ。ジャンは此処で家族を持ち農地を所有して生活をして行けたらと努力します。しかしそれは結婚こそしましたが、余りにも土地に対する執着が強い村では叶いませんでした。妻はその姉夫婦によって殺害され (土地と男女絡み) ジャンは又旅立ちます。 (作品 「壊滅」 に続きます) 読んでいて、男女関係は日本ではそこまでは無かったのだろうと想像しますが、 「よそ者」 意識はほぼ同じだと思われます。凡そ50年ほど前に友人から聞いた話ですが、あるとき 「貴方はどこに住んでいるのか?」 と問われて○○ですと答えると、 「同じ市内だが地 (じ=此の土地) の者では無いな」 と言われたそうです。それほど地縁血縁意識の強いのが農民という事でしょうね。しかしそれも時代の流れと共に変化するでしょう。三百年かけて出来上がった盆栽樹木の姿は、同じ年数をかけないと変えられないという事でしょうね。 |
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