《私の本棚 第334》   令和6年3月31日 号

 
「金 (かね)  エミール・ゾラ 作 
 全20巻の第18巻目になります。この作品は1890年11月30日から1891年3月4日まで日刊紙 『ジル・ブラス』 に新聞小説として発表されました。(関係は有りませんが漱石24歳・ゾラ51歳) 当時の経済世相を踏まえた小説という形にしています。主人公サッカールの復帰から没落までを、金と男女関係を交えて作品にしました。当時の経済世相というのは翻訳者解説によると ①ミレス事件 ②ペレール兄弟の銀行破綻 ③ユニオン・ジェネラル銀行の倒産事件です。更にこれら三つの事件はヨーロッパ人とユダヤ人が経済的な争いをしていたことが絡まっています。作品発表後の1894年にはドレフェス事件が起こりフランス国内は混乱の時代だったようです。
 主人公のサッカールはこの作品以外に 『ルーゴン家の誕生』 『獲物の分け前』 『
生きる喜び』 『パスカル博士』 に登場しています。「生きる喜び」と「パスカル博士」 は この 「金」 のように古書を探して手に入れましたが現在未読です。主人公のサッカールに着目してこれらの作品を発表順に読み進めれば又違った読後感想が湧いてくるでしょうし、私のように商売気が薄い場合でも読みやすい作品になると思います。主人公サッカールの金銭哲学は作者ゾラの考え方を表しています。この作品に関して新聞インタビューを受けた際に次の様な発言をしていました。
・・・・・・「私は金を持ち上げようと思っています。金が持っている惜しみなくものを生み出す力、その溢れんばかりの力を絶賛するつもりです。私は金を罵る人達の意見には賛成できないのです。私の出発点となる原則は、金をうまく使えば人類全体のためになるというものです」 (ジブ・ブラス紙1890年4月8日号)・・・・・・
 確かにゾラの言う通りだと思いますが、上手く使えないのも金というものでしょう。小説の中にはサッカールが自分の銀行株の金額を上げようとして様々な行動をとる場面が出てきます。読んでいる途中の2024年3月5日の京都新聞朝刊に 「東証終値初の4万円超」 という記事がありました。大見出しには 「速すぎる上昇ペース 要警戒」 の文字があります。本当ですね、素人の私でもそのように感じます。作品と重なりましたので、記事を切り取って残してあります。
 この作品をどうやらこうやら読み終えた昨今、日本政界の裏金問題が白日のもとにさらされています。自民党の二階元幹事長は自身は次期選挙には出ない形での円満?政界引退幕引きを発表しました。(一方で氏の息子を政界に出すそうです。そりゃそうでしょうね) しかしその発表時に質問する記者に対して 「馬鹿野郎」 という言葉を発しました。記者に向かってマイクとカメラを前にしての事ですから許されませんね。言葉を無かった事にするのは政界の常套手段ですが、吐いた唾は呑めません。因みに1953年3月14日、時の吉田茂首相が 「バカヤロウ」 と発言し衆議院が解散に追い込まれました。こういった過去の事が元幹事長の頭にそれとなく漂っていたか否か分かりませんが、「先生」 と呼ばれる人がこのような発言をすることは絶対に許されません。85歳にもなった政界の、一応、重鎮と評される人が発する言葉ではありません。商売にも政治にも疎い私ですが、苦労の末商売で儲けたお金を大変有意義に使っておられる経済人は沢山おられます。しかし政界や経済界の何者かの手のひらの上で踊りながら、自由に金庫から懐へ入れた金はこれと言う使い道は無いでしょう。例えそれが毎年10億円・15億円・20億円だったとしても。飲めば飲むほど渇きを増すのが金、MONEYでもGOLDでもね。国民の事はどれほど彼らの心に在るのか知りたい。現在の世界情勢は市井の私から見ても混沌としています。《日本国内の政治と政治絡みの浮ついた情勢、そして今年(2024年)元旦の能登地震と更に予想される超巨大東南海トラフ地震》・《ロシアと中国と北朝鮮の安心感の無い協力関係》・《アメリカ大統領選に伴って見えてくる米国内の不透明な混乱した情勢》・《私には判断できないロシアとウクライナの関係》・《長い歴史の上に、周辺国を巻き込んだイスラエルとガザ地区の戦闘》。難しい舵取りが必要な時代に金を掴み取ってにやけているばかりでは国の発展も安全も無く国民の安心も有りません。私の知る数少ない政治家の中では、野中広務元幹事長は偉い先生どころかそれを超えた唯一の“立派な政治家”だったと感じています。私の蔵書にある政治家に関する本は、『橋本龍太郎外交回顧録 (五百旗頭真・宮城大藏 編)』 と 『聞き書 野中広務回顧録 (御厨貴・牧原出 編)』 の2冊だけです。 
・・・・4/23 追記: 金比羅音頭の様に 「おいて(追風)に帆かけてシュラシュシュシュ」 のような風任せでは無く、例えとして原子力船のように自力で(国会議員の限りない努力で)燃料補給も必要無く、国をより良い方向へ進めて戴きたい・・・・。
 話しがそれましたが、商売向きで無い私はこの一巻を読むのに大変な苦労をしました。意味がわからないのでは無く、少し大袈裟に言えば本を手に取る事やページを繰ることにためらいと疲れを感じました。でも、未読の2巻は元気な間に読んでおきたいと思います。
 
あんな本こんな本、あんな本こんな本サイクリング、ゾラ、金

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あんな本こんな本サイクリング、あんな本こんな本、ゾラ 


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