《私の本棚 第236》 平成28年7月号
1989年作 「日の名残」 に続いて2015年作のこの作品を読みました。氏の作品はどのジャンルにも属さないという嫉妬や非難に近い評価を同業作家から受けていると言うことです。まぁ、賞賛と解すれば良いのでしょう。この二作からでもその評価は充分に感じられます。 解説によると舞台はアーサー王の時代、六世紀頃のグレートブリテン島。日本でいえば聖徳太子が活躍していた時代になります。アーサー王は実在性に疑問符がつくらしいのですが、伝えられるところに拠ると、円卓の騎士 (12人) 達とともにローマ人やサクソン人 (ドイツ) を撃退したとされています。主人公であるブリトン人のアクセルと妻ベアトリスが息子に会いに行く旅の途中に、一般人に身をやつすサクソン人の騎士と少年、修道僧、アーサー王の命を受けた老騎士ガウェイン、雌竜、渡し守が登場します。更に、人物ではありませんが、霧と竜の息が常に背景にあります。 正直に言うと、後半は舞台に溶け込めませんでした。国民性の違いがありますから、古い時代の伝説的な展開は理解の及ぶところではありません。しかし、読み終えた今、何となく霧が晴れるように物語が見えてくるという、今まで感じたことの無い不思議な感覚に襲われています。夫婦親子であっても触れられたくない過去があります。人間は忘れたい記憶ほど忘れられないという傾向があります。そこに魑魅魍魎とともに竜の息や霧が人間の記憶をベールに包み込んで薄れさせ、安穏と平和を紡ぎだしています。 全体的には夫婦愛の物語と評されていますが、やはりなんとも言えない不思議な感覚を受けます。購入してから読んでいない 「ケルト民話集」 が書棚にあります。それを読んでからもう一度この作品を読んでみたいと思います。 【2017年(平成29年) ノーベル文学賞受賞 お目出度うございます】 |
オオハナウドと霧 |
前の頁、博士の愛した数式 次の頁、アーサー王物語 VolV.目次へ VolV.トップ頁 Vol.U トップ頁 Vol.T トップ頁 (1)遠い山なみの光 (2)浮世の画家 (3)日の名残 (4) 充たされざる者 (5) わたしたちが孤児だった頃 (6) わたしを離さないで (7)夜想曲集 (8)忘れられた巨人 (9)クララとお日様 |