《私の本棚 第213》 平成26年11月号
ルーゴン=マッカール叢書の全巻を読もうとしてやっと第十巻に至りました。何しろ日本人の私には 登場人物の名前が男か女か判然としない。それで読み進めても、この登場人物たちの関係はどうなっているのか尚更分からない。そんな中で就寝前のほんのひと時を少しづつページを繰るような読み方でした。 物語の舞台は1880年頃の巴里。百貨店がまだ存在していなくて、商店街が中心の時代です。その一角、高給アパートの住人たちが繰り広げる怪しげな関係を描いています。優雅な生活を演出していながら、その実際はやっと維持している住人。隙があればどうやってご婦人方をものにしようかと企んでいる男達。ご婦人や若い女性たちも適当な相手が居ないか嗅覚を働かせている。女中たちもそれぞれの雇い主の生活実態を、お互いに面白おかしくさげすんで、溜飲を下げています。アパートの家主は何とか高級なアパートであることを維持しようと努めていますが、住人たちはお構いなし。そして、こういう風俗は当時の巴里に普通にあったように書かれています。外見は高級アパート、内実は出鱈目なごった煮。ブルジョワジーの世界とは所詮このアパートと同じようなものだと作者が言っているようにも感じます。 訳者の後書きに、登場するある女性のことを、結婚市場において自らが商品でしか無いと思い知らされ、それ故に高価な商品で身を包むことをひたすら求め、飽くなき消費者となることで自分の買い手 (主人) である男達に復讐しているのではないかと述べています。この後に続く第十一巻は「ボヌール・デ・ダム百貨店」となるのですが、飽くなき消費者の心理を飲み込んでいく物語になるようです。 この作品は1882年に書かれていますが、この中にディケンズの小説を読んでいるシーンが出てきます。ディケンズの何を読んでいたかは分かりませんが、実態として場違いなアパートで心休まる本を読んでいたという描写なのでしょうか。 |
酔芙蓉 |
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