《私の本棚 第208》 平成26年6月号
執筆時期はあの有名な 「居酒屋」 と 「ナナ」 の間に書かれた作品です。前後の二作品とはまったく趣を変えて、上品さが漂っています。居酒屋が発表直後から大変な悪評を得たため、それならばと書かれたということです。もっとも私は、居酒屋とナナの方が好きでこの作品は好きになれません。しかし当時のフランスでは好評であったということです。時代的に世の中に受容されるものとされないものの相違でしょうか。ルーゴン=マッカール叢書の中に含めたという所が返って特異さを表しているように思います。 上品な未亡人と病弱な娘が、治療が縁で隣家の医師と親しくなっていきます。そしてありがちな、無くはなさそうなきっかけで婦人と医師はその距離を縮めていきます。是認はしませんが、現代社会なら珍しくもないような進展です。娘の死を機にその関係は解消されます。 読んでいると全体に情景描写が細かすぎるという印象がします。恐らく新聞連載のために読者に気を持たせたのか、或いは医師と未亡人が緩やかな時間の流れの中で近付いていく事を表現したのかどちらかという印象を受けます。そのまま脚本にしても使えそうな気がします。そこまでくどくど長々と日常を表現しなくてもいいんじゃないかと感じながら読みました。 |
岩木山(津軽富士) |
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