《私の本棚 第216》   平成27年正月閑話

     「ほんとうの蝉の一生.....試練とご褒美」      

【こぶたろうさん】

 平成21年4月30日自転車で国道7号線を北上中、山形県酒田市を過ぎた辺りで自称こぶたろうさんに出会った。お天気の良い日で鳥海山も雄大な姿を見せてくれています。前方に不思議な動きをする乗り物、リヤカーではないし自転車でもない。追いつくと手こぎ自転車でした。イスに座って両手をペダルに掛けて回しています。少し話を聞かせて欲しいと声をかけました。似たような自転車でリカベンドという寝転んで乗る自転車は何度か見たことがありますが、手漕(てこ)ぎ自転車は初めてでした。なんと変わった人だなあというのが最初の印象でした。写真を撮らせてもらい、自分の写真もこの珍しいハンドサイクルをバックに残したいと思い、シャッターをお願いしました。快く引き受けて撮影してくださった後、「僕、歩けないんです」 エッ?…でも今歩いてましたよねと聞き返しました。脊椎二分症(せきついにぶんしょう)で歩けないんです、医者も何故(なぜ)歩けているのか分からないそうです。腰から下の感覚は全く無いんです、と。シャッターを押して欲しいなんて大変な事をお願いしてしまったと後悔(こうかい)先に立たずです。彼とは四日後の夜よさこい祭りで(にぎ)わう青森市内で奇跡(きせき)的に再会。泊まるホテルも同じという不思議を経験しました。
 そのあと会うこともないまま、昨年の十月に転居の案内を戴きました。優しそうな奥さんと一緒に収まった写真入りです。良かったねえ。辛いことも沢山あったはずだけど(あきら)めないで日本中で色々な人と出会い、おまけにこんな可愛い女性に巡り合うなんて、きっと(くじ)けないで明るく生きてきたからご褒美(ほうび)なんでしょう。


【三浦雄一郎さん】

 この人の名前は殆どの人が知っていると思います。80歳でエベレスト登頂。体力だけでなく資金面でも超えなければならない山はたくさんあります。誰でもがチャレンジできるというものではないし、ある意味では大変恵まれたとも言えます。しかしそういう引き算をしてもやはり凄い。平坦な道を普通に歩くことさえ覚束(おぼつか)なくなる年齢で、世界最高峰のエベレスト登頂を果たした。
 私も若い頃は山、といっても低い山を歩いた事があります。あちらこちらの山を歩くというのではなく、主に奈良県の大杉谷へ20回位行きました。大台ヶ原山の日出ケ岳から途中の山小屋に泊まって宮川貯水池までの約8q (だったと思います) の下り二日間のコースです。毎年遭難死(そうなんし)する人が出る位険しいのですが、それ以上に美しい渓谷に惹かれます。40歳頃に下の娘を連れて歩いたのが最後です。谷の稜線(りょうせん)をフレームにして天の川を見上げた事は忘れ得ぬ思い出です。
 雄一郎さんは、大勢の助けを得ながらとは言え、鍛錬(たんれん)に鍛錬を重ねてデスゾーンを越えて登頂されました。エベレストの麓に立つまでの厳しい訓練、頂上に立つまでの恐らく想像を絶するような困難。危険を極める下山路。その全てを克復し味方につけた処に、表現しがたい達成感を得られたことでしょう。


【真央ちゃん】

 いえ、ご想像どおり決して知り合いではありません。でも何だか世間でそう呼ばれているので真央ちゃんと呼びます。とても愛らしくて見事なスケートをします。それは世界中の人が認めるところでしょう。彼女のお母さんはいつも送り迎えとともに、リンクサイドに居てアドバイスをしていたそうです。できそうで出来ないことだと思います。そのお母さんを亡くした哀しみから何とか立ち直って、ソチ冬期五輪に出場しました。信じられない事に真央ちゃんはショートプログラムで最下位。しかし翌日のフリーでは最高の演技、女子では史上初の8トリプル、併せて自己ベストを更新し6位入賞。昨日の挫折からよく立ち直れたと思いました。同時にこのような結果は彼女がこれまでひたむきに励んできた努力に対して、あの世からお母さんが課した最後の試練とご褒美に違いないと信じています。

【友人LとS】

 LさんとSさん、私にとってはどういう人たちなのかよく分かりません。きっと新鮮(しんせん)で楽しい仲間なのでしょう。しかし、少し気にかかる事があります。この人達はかなりジコチュウ的なところがあります。時と場所を構わず自分に向き合ってもらいたくて仕方がないのです。一寸でもタイミングを外したり、気乗りがしないそぶりを見せると猛烈(もうれつ)に口げき(正しくは攻撃(こうげき))してきます。
 もうおわかりですよね 「既読(きどく)スルー」 が辛抱(しんぼう)できないLINEさんとSNSさんのことです。しかもこのスルーは彼・彼女達グループの間ではもの(すご)く悪いことらしい。で、(つい)にはその友達から仲間外れにされたから、イジメられたからという原因で自殺する人までいる。しかしスルーで仲間外れにするようなそんな人たちって、本当にあなたの友達なの?と問いたい。人はみんなそれぞれの生活リズムがある。他人の生活を無視して、何がなんでもすぐ返信をしろと言うのは、余りにも自己中心的で他人を思いやる心が欠如(けつじょ)していると思わないの?。そんな人たちを友人だなんて思わない方が良いよ。友人というのはお互いを思い()る心がある人のことを指すと思うよ。そんな人たちはグループでわが世の春を謳歌(おうか)している様に見える。無視された君はその反対に何もかも失ったように感じるかも知れない。けれども近い将来立場は必ず逆転する。今の困難が大きいほど道が開けたときの喜びは大きくなる。
 逆説的になるけれど、私はの一生をこんな風に見ている。ファーブル先生によると、蝉は地下で4年間地上で2〜3週間の一生らしい。普通は、長い間暗い地下で生活をしたので、お日様の光を浴びて喜んでいると言います。だけど私は反対に、今まで温度湿度が一定で天敵もいなく木の根から栄養を頂戴する快適な日々を貪っていたから、命の終わりに試練の日々を与えられていると見えるのです。熱い暑い太陽の下、いたずら盛りの人間の子どもから逃げ、捕食しようとする小鳥から逃げ続ける毎日です。既読スルーをイジメの対象にするような人たちは、蝉の一生のように大人になってから大きな試練が待っているように見えます。
 
クマゼミ、あんな本こんな本





  白木蓮とクマゼミ 
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