《私の本棚 第293》 令和2年10月18日号
この本を開いて(読む前)感じたことは、挿入された写真が豊富で、しかもその全てが目にしたことのないものばかりだったのでとても参考になったことです。 ケルト民族には天地創造神話はありません。しかし興味深い話しとして、紀元前334年頃、アレクサンダー大王の友人であるプトレマイオス・ソテルが記した事として、大王とケルトの使者が宴会を開いたとき、大王は使者にこう尋ねました。 「ケルト民族が最も恐れるのは何か?」巨大でたくましい体をしたケルトの戦士は、 「わたしたちは、どんな人間も恐れません。恐れるのは、空がわたしたちの上に落ちてこないかということだけです。」 そして、大王への誓いの証しとして、 「われわれが同盟を守らないならば、空よわれわれの上に落ちて、われわれを木っ葉微塵に砕け、大地よ裂けてわれわれすべてを飲みつくせ、海よ割れてわれわれを巻き込め!」 と言ったと紹介されています。これからすると神話としては残っていませんが、何らかの北欧神話にでてくるような物語があったのではないかと思われます。 「国造りを見た男トアンの話し」 ここには輪廻転生の話しが出てきます。仏教でいうところの話しとはすこし異なります。人間として幾世代かを転生し、その後の転生は、鹿・猪・海鷲・鮭・その鮭を食べた女性の子供として生まれます。肉体は滅んでも魂は生き続けるというような話しとも受け取れ、人類の共通性を感じます。 「ダーナの神々」 神族たちが魔の雲に乗って風や雨と一緒にアイルランドにやってきます。このとき神々は魔剣・魔の槍・魔の釜・運命の石という四つの魔力のある道具を持参します。日本の三種の神器と似通っています。偶々ですがこの文章を書いているタイミングにNHKのEテレで 「歴史にたどる自分--考古学者大村幸弘」 という番組を見ました。その後偶々 「ヒッタイト文明」 に引き寄せられていつの間にかYouTubeを見ていました。YouTubeを視聴するのは初めての経験です。その中でシュメール文明には三種の神器があって、それらは武神のシンボルの剣・日像鏡・月像の首飾りと称されているようです。又、日本書紀にある八岐大蛇のような七ツの首を持った龍を退治して武神のシンボルの剣を得たと書かれていると言います。更には日本の皇室に用いる菊花紋と似た文様がシュメール王朝時代の王室・王族を表す紋章に用いられていたということです。真偽の程は定かではありませんが、イラクの当時の大統領サダム・フセインが記者会見をしていたとき、イギリス人の記者が大統領の腕章にあった菊花紋について質問をしたという話しが残っているようです。日本語の古語で天皇をスメラと称しますが、古代バビロニヤ語でも、神=スメルと称していたなど、不思議と似通った事があるようです。 直接には何の関連もありませんが、 「女神ダヌは中世までブリギッドといわれ・・・」 という説明があります。その名詞の響きに引き寄せられて記憶を辿ると、チェコの作家シュティフター作の「ブリギッタ」を思いだしました。アーダルベルト・シュティフターは1805年10月23日に南ボヘミアのオーバープラーンで誕生。大森林の中の淋しいプレッケンシュタイン湖の近くで、モルダウ河谷の森や丘に囲まれ、遠くアルプスの山波が薄霞みのようにかすんで見える所であったと紹介されています。 (機会があれば、岩波文庫2011.3.16発行のカバーカット写真をご覧下さい) 遠い異国の神話と、同じヨーロッパ大陸の近代作家の登場人物女性の名前を題名にした作品が接近した不思議な時間でした。 「常若の国へ行ったオシーン」 この話しは、日本の浦島太郎伝説とそっくりな内容です。ただ、主人公の戦士オシーンはこの話しに初めて登場するのでは無く、前段階の物語が幾つもあります。全体としては 「ファナ神話」 の中に納められた連続シリーズの最終章と言えるでしょうか。 オシーンは常若国の王女ニァブに誘惑されて連れていかれます。美味しい食べ物・病気も老いも死も知らず、宴や音楽に囲まれて王になります。三年が経った頃、父や友人の事が懐かしく想い出され一度帰省することにしました。オシーンはこのときの妻ニァブの注意を守ることができずに三百年後の故郷で絶命することになります。訳者である井村氏はここに集めたケルトの神話はアイルランドの神話と言ってもいいかも知れませんと書かれています。しかしどうしてこれほど似た話しが日本に残っているのでしょう。何千年いや何万年の人類移動の時を経て拡散したのでしょうね。語り継がれて時には変化をしながら在るということは不思議な夢を見る様な感じを受けます。ヒッタイト神話なる書籍があるのならいつか読んでみたいと思います。 |
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