《私の本棚 第283》 令和元年 5月15日号
鬼のような範太郎とその息子二人、範太郎の妻が亡くなった後お手つきとなった雇い女の利江、その後生まれた男子二人の物語です。範太郎は軍隊で鬼瓦という異名を持つたたき上げで出世した大柄な男です。利江に子供ができても何ら可愛がろうとせず、それどころか虐待を続けていました。当然、先妻の息子二人も籍の入った新しい母親を認めず、歳の近い二人の子供を妾の子と言っていじめています。父親から折檻として冬に井戸水を頭から掛けられることもたびたびです。武士の家では三男四男は奴僕だと思えば良いというタワケ者。利江の息子で上の良利は父親譲りで剣道も一番上達します。下の智秀は上達しませんが、二人とも自分を押し殺して生きる術を身につけて成長しました。 先妻の子は士官学校と幼年学校に通っています。戦時中のこと故、如何に小坊主とはいっても位が下の兵隊は敬礼をしてすれ違います。しかしその後、良利は陸軍大学を卒業し出征。智秀は心が折れ曲がって行方知れずとなります。鬼瓦は戦地にいる息子二人の為に利江に陰膳をさせます。利江は隠れて密かに実の息子二人の為に陰膳を供え続けていました。そこまでは鬼瓦範太郎の意気揚々の人生でしたが、可愛がっていた息子二人は戦死。虐待し続けた子供のうち良利は長男二男を遙かに凌ぐ昇進後、怪我もせず捕虜として生きながらえています。下の智秀は鬼瓦がややほうけて来た頃、ひょこっと戻ってきました。 私はこの話を読んで、「天網恢恢疎にして漏らさず」 という言葉や 「因果応報」 という言葉を思い出しました。利江の息子二人は進む道こそ異なりましたが、辛苦をなめ尽くした上で共に命を全うし、今後の人生においても弱い者に対して心を寄せるような立派な道を進むことと思います。 作者は不遇の人達を描くのが上手いですね。年譜を調べてみると、父親は高知出身で船員、転勤で下関・神戸にも多少の縁があるようです。 井伏鱒二の小説も好んで読んでいたようです。29歳に肺結核を患っており、その辺りのことが「足摺岬」にも見え隠れしていました。 |
香川県 丸亀城 |
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