《私の本棚 第199》   平成25年9月号

    「脳の中の幽霊」  V・S・ラマ・チャンドラン 
                 サンドラ・ブレイクスリー 共著

 チャンドランという脳神経学者の書いた本です。幻肢(げんし)という言葉に興味を持って読み始めましたが、脳の働きの奥深さに驚く事になりました。

幻肢というのは事故や手術で手足を無くした人が、無いはずの手足が痛かったり(かゆ)かったりする現象であることは何となく知っていました。しかしその症状も紹介されている事例のようにひどくなると、(はた)で見ている人が 「この人、おかしい(狂った)のではないか」 と思えるほど深刻な症状を訴えるようです。それが余りに本人に苦痛を与えるようになると、その末端を更に切断するという手術も行われていた (現に行われている?)。 しかし当然のことながら術後余り日を()かずして同じ幻肢を訴えるようになるとのことです。これは彼らの脳が今だに四肢があるように処理をし伝達している結果です。それなら何となく理解できるように思いますが、症状に()っては自分の目で無くなった手足の位置を見ていても、あるように見える人がいるということです。
 サバン症候群という言葉を聞いたことのある人も多いと思います。彼らは日常生活にも支障をきたす程度のIQであるにも拘わらず驚異的な特殊才能を持っている人達です。8桁の素数(そすう)を簡単に言えたり数秒で6桁の数字の立方根(りっぽうこん)を出したり、電卓を使っても答が出せないような乗数(じょうすう)計算を行ったりします。美術でも音楽でもはたまた現在の時刻を秒まで正確に言えたり、6bも離れた場所から見るだけでものの大きさを正確に測れたりします。インドのラマヌジャンという人はある時突然に数学の新しい定理方程式を生みだし始めました。まともな教育を受けておらず成績も悪かったそうです。本人に言わせると 「女神ナマギリができあがった方程式を夢の中でささやく」 そうです。
 この本を読んでいると、今まで 「人間の脳は凄い働きをしている」 とだけは理解していましたが、そんな生やさしいものでは無いことに気づきます。脳の働きのごく一部しか分かっていないというのが現実のようです。
 1912年にドイツの気象学者アルフレッド・ベゲナーという人が、アフリカ大陸の西岸と南米大陸の東岸はくっついていたが、大陸移動で離れたと発表しました。当時は笑いものにされたようですが、その後地球の内部にマントルが存在することが分かり正しい説と理解されました。

 養老孟司(ようろうたけし)先生がこんな事を言っておられたのを思い出します。

              --- 他人に理解されないものは無価値となってしまう --- 

脳の働きもいつの日か解明される日がきて、幻肢なども治療できる日が来るのでしょう。
 
植物園にて、あんな本こんな本



 植物園にて
 
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