《私の本棚 第184》 平成24年6月号
本名 田口哲朗 。昭和40年のこの作品で第54回芥川賞受賞。 母と妹との三人で父方の遠縁を頼って疎開したときの事を描いています。14歳の少年であった作者は、知り合いもなく環境も全く異なった地に三人で身を寄せることになった。疎開先の人はいい人達であり、物質的に不自由な中にも、不満を言うほどの事はない。父を病で失い、2年後に空襲で東京の自宅を焼かれ到着したのは角館であった。寒さは厳しく、食料も満足にはなく知人もいない。そのような状況で次第に母は心を病んでいきます。多少おっとりとしたお嬢様育ちのような母は、激変した環境について行けなかったのでしょう。敗戦後の日本には、少なからずこのような事があったと思います。何を目的とするではなく、ただ生きるために生きる。そうした中で逞しく生きる事のできる人もいれば、折れてしまう人もいる。この作品では14歳の少年が大人の会話の意味とするところは、おとなが想像する以上によく理解しながらも、自分が話しに加わる術を持たない年頃をよく表現していると思います。 おとなの側からすれば物足りない会話の相手であっても、受け手の子供は想像以上の理解をしている。しかし、理解していることを伝える会話能力を持たない。多くの人が経験する人生の通過点でしょう。 舞台の河は |
檜木内川 堤 |
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