《私の本棚 第183》   平成24年5月号

    銀の匙の子どもたち」 橋本 武 著
      月刊 「図書」 第753号巻頭言より

 何気ない様に思える言葉や文章が人の心を()らえるということは、それほど多くないにしてもあると思います。その一つがこの巻頭言でした。一人の中学国語教師が、どんな授業をすれば子供たちの心の(かて)になるか、生涯の()(どころ)になるかということを懸命(けんめい)に考えた結果、中勘助の 「銀の(さじ)」 を三年間通しての教材にします。銀の匙は幼子が青年になるまでの過程を思い返しながら書いています。作中の主人公と教え子たちの成長を重ねて教材にする。その中で今の自分たちを考えさせるきっかけにもする。この橋本先生の子供に対する非常に優しいまなざしが、言外から伝わってきます。
 サラリーマン (給与労働者) の労働条件で何が一番大切か、それはどれだけ良い上司に恵まれるかだということが言われます。確かにそうですが滅多にありません。宝くじに当たるほど難しいとは言いませんが、かなり難しそうです。同じ事は義務教育を受けている子供にも当てはまると思います。先生たちは皆一生懸命にしておられるのですが、なかなか先生ご自身のスタイルでありながら子供の心に深く残る授業は難しいものだと思います。
 中学生のころ私自身、授業そのものではありませんが、悪ガキに懸命に向き合っておられた三人の先生を見てきました。国語担当の先生二人と理科担当の先生です。強い印象で今もその姿を思い起こすことができます。三人の先生は悪ガキに向き合っておられたのであって、私に与えた感銘(かんめい)勿論(もちろん)先生方が知りようのないことでした。しかし教育とはそのようなものでもあると思います。
 橋本先生のようにこれだというものを見つけられることもあるし、残念ながら見つけられないこともある。しかしそういう教育の方法を考え続けておられる日常の姿からも、子供たちは何かを感じ取っていることもあるのです。

 大人 中でも教師は 更には企業の上司も、何らかの教育的信念が必要なのだということを再認識させられました。
 
地蔵院の桜、あんな本こんな本






 京都府 井手町

 地蔵院の桜

 
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