《私の本棚 第168》   平成23年3月号

    「経かたびら」 グリム童話109より

 バイエルンで採集された話で、いわゆる昔話ではないと解説されています。こういう系統の話は 「ベルギーのドミニカン派の僧の1260年の記録にもあり、日本でも仮名法語の中にも見られる」 そうです。私は学者ではないので感覚的になるのですが、かなり多くの日本人の心の中にも思いとしてあると感じます。
更にアメリカ先住民の歌が基になって大ヒットした 「千の風になって」 という中にもあるように思います。およそ人類はその出現以来、生と死を見つめながら進歩してきた過程でDNAの中に強烈に刷り込まれた思いなのでしょう。
 七つになる坊やが急病で亡くなります。この世の何にもまして可愛がっていた母親は夜も昼も泣いてばかりいました。埋葬してまもなく、夜になると生きていた頃に遊んでいた場所へ出て、母親と一緒に泣いて朝になると消えてしまうのです。坊やはあるとき母親のベッドの足元に腰掛けてこう言います。「泣くのはやめて、棺の中で眠れないの。涙が経かたびらにかかるから眠れないの」 母親は驚いて泣くのをやめました。すると子供は安心して、地面の下の小さな寝床で安らかに眠ったそうです。
 真実か否かは別として、霊能者達も同じ様な事を言います。亡くなった者への思いが余りに強すぎると、死者の魂はこの世に引きずられて成仏できないと…。
そんな見たような事を言ってと批判することは簡単ですが、この後も全うすべき生を残された者にとっては、そのように心を持つことも大切なことに違いありません。遅かれ早かれ、いつの日かこの世の修行が終われば後を追っていく身なのですから。
 
スノーボール、あんな本こんな本




 スノーボール
 
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