《私の本棚 第320》   令和4年10月13日 号

          「星の王子様」  サン=テグジュペリ 作 


 この作品は小学生の頃には読んでいたのではないかとは思いますが、題名以外記憶にはありません。今回読んでみてその難しさにいささか困惑。読んでいたとしても記憶が無くて当たり前のような気がしました。王子様である僕と主人公である私(僕)の会話がどこかで一体化しているかのような箇所もあり、読むための準備が必要とも感じました。一応童話作品という位置づけですが、冒頭の献辞を何度か読み直しその後、途中で読書放棄していた作品を最初からメモを取りながら読み直す事が必要でした。大人や老人と呼ばれる私達が自分の子どもの頃を思い起こし重ね合わせながら読むと次第に分かってくる作品ですね。ジャンルを決められないような作品です。
 空には多くの小さな星が輝いています。その小さな星一つづつには特徴のある人が一人住んでいます。そうです、一人しか居場所が無いほど小さな星です。傲慢な人・うぬぼれの強い人・飲んだくれの人・独占欲や強欲の強い人・几帳面に自分の仕事を勤める人・物事の細部にだけ目を向けて全体を知らない人などが居ます。
 ところが、王子様がやってきた七番目の大きな地球という星の上には、人間や動物の多くの生命が偏った土地で活動しています。小さな星ではそれぞれ一人しか居なかった人達が、地球上には何千人・何十万人何十億人も住んでいます。そんな星、地球の砂漠で僕(私=作家)と出会います。ここへ来た理由は、僕(王子様)は自分の星で仲良くしていた唯一の花と一寸したすれ違いをして旅に出たからです。誰一人いない色々な場所を歩いている時、バラの花が咲きそろっている庭に行き当たりました。自分の星に咲く一本のバラは世界中どこにも無いと感じていたのに、ここにはそっくりなバラが五千ほどもあります。王子様は世界に一本だけのバラの花を持っていると思っていたのに、これだけあるんじゃ偉い王様にはなれないと思って泣きました。そこに現れたキツネに、仲良くすればするほどかけがえの無い友人になると教えられます。さらに旅を続けるなかで、子供たちは何気ないことに楽しみを見いだすが大人にはそれが無いことや、何でも合理化してしまう大人が多いことも知ります。同時に人間の本当の美しさは心の奥深くにあること、真の友人が一人いれば自分の心は輝くものということに気づきます。ある日水が飲みたくなった僕(私=作家)は王子様を無理に誘って水を探しに出かけます。王子様は水なんか別に欲しくは無いのですが一緒に出かけました。広大なサハラ砂漠は見渡す限り砂ばかりですが、その何も無いところに井戸を見つけました。渇きには気づかなかった王子様も、汲み上げた水を目にし飲ませてもらって初めて自分がそれを欲していたことに気づきました。そして更に、この星の人達は一つの庭でバラの花を五千も作っているけれど、自分が欲しいのは何なのか分からずにいることにも気づきます。そして何か(友人)を求めて目で探しても見つからない。心で探さないと見えない事に気づきました。王子様は自分の星に独り残してきた花と仲直りするために戻っていきます。

  このフランスの作家は飛行中隊長で、偵察中に行方不明になった人です。夜間飛行という作品もあります。偶然ですが作品の書き出しも砂漠に不時着したところから始まっています。冒頭の献辞にもあるように、子どもの頃本当に仲良くしていた友人と何時しか疎遠になってしまった事が心から離れず、その思いを込めて書いたようです。この作品の核心は砂漠で井戸を見つけたところでしょうね。読者の私も少しホロッとしました。身の回りには大勢の人達が居るけれど、うわべだけでは何も分からない。本当の友人は、互いに自分の心を無にして向き合う必要がある。そう言っています。友達百人できたかなの世界も必要ですが、生涯の友人は一人いれば最高という事も真実だと思います。しかしそれも、心の中を推し測ることは不可能なわけですから互いの気持ちが一致しているかどうかは分かりませんよね。正にそこが難しい。子どもだったころのレオン・ウェルトに捧げられた作品ですが、彼はサン=テグジュペリをどんな友人であったと感じているかを私は知る術がありませんし、知る必要も無いでしょう。お互いに同じ気持ちなら素晴らしいことですし、そうでなくてもそれが人生の難しさであり良いところでもあると思います。

 
訳者(内藤濯あろう)ご子息初穂氏の備忘録から少しご紹介します。濯氏は「声にだして読むに耐えるリズム重視の訳文」を心がけておられ、70歳の春に訳した星の王子さまはその集大成だったということです。氏は原文と訳文を音読してリズム感を確かめておられたということです。原作は数十ケ国語に訳されていますが、原題を改めたのは濯氏の日本語版だけということです。

 話しを少し転じますと、ある経緯から昭和37年~38年頃にこの訳本を美智子妃に献上したことが端緒になり、「星の王子様の会」に美智子妃がお忍びで参加されたといいます。只、このお忍びが一般に知られる処となってからは、童心を語りあうつもりの会が妃殿下を囲むサロンのようになってしまって、まもなく「星の王子様の会」は解散したようです。
 私はこの事実を知って、今日の皇室の姿が当時に遡り繋がるような気持ちになりました。残念です。

あんな本こんな本サイクリング、星、星の王子様、サンテグジュペリ



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