《私の本棚 第281》   平成31年2月18日号

    「牡 丹」   田宮 虎彦 作

 一言でいえば 「ぞっとする・うす気味悪い」 でしょうか。男にもこの登場女性のような者もいるでしょうが、それとは又すこし違うような気がします。女房運の悪い主人公は三人の妻に先立たれます。中学校も出ていない杉之助は、満州に渡って努力と運が重なり警察署長にまでなりました。しかし日本に戻って来るとその経歴は警察内部では通用しません。しかし真面目な経歴が買われて運良く銀行に勤めていました。三人目の妻は高知で亡くなったのですが、周囲の紹介で妻の亡くなる二ヶ月ほど前からツナという女を住み込みで介助に雇っていました。合わせようとしないその目はきついものでしたが顔立ちは美しく、妻の介助を淡々とこなしてくれていました。子供にも恵まれていなかった杉之助は、妻が亡くなった後も何となくずるずるとツナを解雇しないまま、愚かにもいい歳をして男女の関係になってしまいます。
 ここから女は豹変します。虚言癖でかつ独占、欲更には金の亡者という変質的本性を現したのです。警察官であった故、相手の身辺調査をするのは身についていたはずなのですが、ツナに関しては自分も64歳という年齢から、子供もいないという先々の焦りも手伝って、ついおろそかになっていました。これまでの生き様全てが崩壊するような辛酸の後屋敷も売り払って女に渡すと、身一つになって親戚を頼って山奥に引っ越します。もう安心と思って生活をしているところへツナは現れます。恩給を目当てにやってきたのです。死ぬまで一切合切骨の髄まで吸い尽くされるのでしょう。何故の前世からの業か因縁か、本当に背筋が寒くなります。いずれご紹介しますが、「雨月物語の蛇性の婬」の現代版の様に感じます。  古典文に似た話で 「好色一代女」 がありますね。
 
あんな本こんな本、牡丹、田宮虎彦、大歩危小歩危、付近の集落



  大歩危小歩危

  付近の景色

 
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