《私の本棚 第264》   平成30年3月28日号

   「ブリギッタ」   シュティフター 作

 作者については 「荒野の村」 で紹介しました。この作品は1844年発表、私が生まれるより104年前のことです。荒野の村と同様、穏やかな品位あふれるものを感じます。

 読み始めたとき、二人の主人公のうち女性のブリギッタは非常に醜いのだろうと想像しました。しかし、格別な美人では無かったかもしれないが、醜い女性ではなかったことが明らかになります。一方の男性主人公のムーライ大佐は、社交界の寵児で女性のみならず男も惚れ込むような人柄です。しかしどこに住んでいて何をして暮らしを立てているのか知る人はいません。どれほどの美人と親しい間柄になっても、なにかしら此処までという時期になると去って行き再会することはありませんでした。
 ふとしたことから語り部の 「私」 はこの大佐と懇意の間柄になります。招かれた私はハンガリーに住む大佐の領地に旅をします。そこで長期滞在をする友人として大佐が今までに見せなかった新たな一面を垣間見ます。大佐は自分の領地で農業経営を行っています。広大な領地を大勢の作男達から絶大な信頼を得ながら采配をふるっていました。一方ブリギッタも同じように農地の運営を行うたくましい女性でした。彼女の一人息子が大きな災難に遭遇した時、大佐とブリギッタは15年の歳月を経て、過去の過ちから解放されて再び夫婦の絆を取り戻します。

 この作品では作者が言いたいこと伝えたいことは冒頭に表し尽くされています。見た目や雰囲気だけでは本当の処は何一つ分からない。内面から出てくる真実の人柄こそが人間にとって本当に大切なのだと。
 
曽爾高原、あんな本こんな本



 曽爾高原

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