《私の本棚 第243》   平成29年2月号

     「五重の塔」 幸田露伴 作

 1891年 (明治24年) 連載発表。一文が長い (句点までが長い) が、何故かそれでも大変読みやすく感じます。
大工の棟梁である源太と抱え職人の十兵衛が、五重の塔の建築請負を巡って、職人としての意地を貫く過程が見事に表現されていて読み応えがあります。源太は皆が認める棟梁。一方十兵衛 (綽名は、のっそり十兵衛) は普段はあれこれと指図をされて板塀や囲炉裏の周りを修繕するような仕事をしています。しかも、要領よく仕事を片付けられない凝り性。あるとき寺の塔を建立する話が持ち上がります。棟梁が見積書を提出済みですが、十兵衛は何としてもこれを自分がやりたくて訥々と上人に直訴。
 ここから話が展開していきますが、その高僧が源太と十兵衛を前にして行った訓話と それから後の源太と十兵衛の苦悩と決断が、この話に大きな奥行きと広がりを与えています。日本が新政府となって新しい世になり、皆が世の中に羽ばたく機会を求めていたと思います。そうした時代にあってこの作品は、日頃はつまらない仕事を指図に従ってやっていた十兵衛。しかし、その腕前は棟梁を凌ぐ自信があった。要領の良い、言い換えればやっつけ仕事は出来ないやらない質です。十兵衛の絶対的な職人としての自信。源太の自分を押し殺して十兵衛を大切にしたいという思い。その凄まじい葛藤を越えて行きます。様々な職人達の十兵衛を馬鹿にする行動を越えて、塔を完成させますが、前例のないような台風が塔を襲います。十兵衛の塔は絶対に倒れないという信念と、悔しい筈の源太がとった塔を守りたいという行動が、感動を生み出します。
 新しい時代を迎えた多くのいわゆる平民青年達に、勇気を与えたのではないかと想像します。
 
羽黒山 五重の塔、あんな本こんな本



 羽黒山
 
 
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