《私の本棚 第202》   平成25年12月号

    ガリバー旅行記」      ジョナサン・スイフト 作

 1667年アイルランドのダブリン生まれ。この作品は1726年の作です。

生まれつき風刺の才能に恵まれていたスイフトは、大人から子供まで読み継がれてきた、そして今後もずっと読み継がれるであろう名作を残しました。子供が読めば面白い話ですが、大人が読むと違った意味で笑えてきます。笑えるというよりも現実世界の愚かさを再認識するが故に笑ってしまうと言う方が正しいのでしょう。
 ガリバーは先ず小人の国へ流れ着き、巨人の国、飛島の国、馬の国と何度も旅を重ねます。個人や国家の思い上がりを戒めるように様々な経験を重ねます。話の内容と言っては何ということは無いおとぎ話です。しかしこれほど大人と子供で受ける印象が異なる作品は珍しいと思います。
 この本を訳したのは原民喜という人です。この人は広島生まれで原爆にも遭遇しています。後書きの中に 「一匹の馬」 という訳者の短文を記載しています。その中で8月8日の朝、広島駅近くの柳の下に一匹の馬が佇んでいる姿を見ます。その馬は裸馬で負傷はしていないようだが悄然として首を低く下にさげて驚き嘆いているような不思議な姿だったと書いています。原民喜はスイフトの自殺を凄惨と書きましたが、自身も鉄道自殺しました。文筆家はある意味で自分の内面を文字にする人達ですから、筆だけで無く何事かに行き詰まった時相談する相手に恵まれていない或いはその気持ちが無い場合も多いのでしょう。

 それでも尚、若い人のお手本になるよう 生き続けなければならないし そのような強い心を持って欲しいと思います 
 
金沢城、あんな本こんな本






  金沢城
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