《私の本棚 第196》   平成25年6月号

    「夜間飛行」  サン=テグジュペリ 作

 作者は1900年フランスのリヨン生まれ。1944年戦闘中にドイツ軍機により撃墜されたと推定されています。
1903年12月のライト兄弟の初飛行に始まって、6年後には英仏海峡横断、1927年5月にはリンドバーグによる北大西洋横断が成功しました(映画…翼よあれが巴里の灯だ)。更に1919年からは郵便飛行が始まりました。作者自身も貴族出身の珍しい飛行家でした。
 この作品が書かれたのは1931年で、パタゴニア (アルゼンチンとチリ) 地方の猛烈な風と戦いながら航空路調査を行っている時でした。自身がパイロットでもあるので、飛行の困難さ、地上要員や家族の気持ちが良く表されています。登場する飛行機は約5トンの機体でパイロットと無線通信士の二人一組です。機体そのものもまだまだ完成されたものでは無く通信機器は嵐の状態如何では通じず、計器板は暗くて見にくいものでした。夜間飛行も初めは夜明けの1時間ほど前から開始し、日没の1時間後程度であったようです。列車よりも劇的に早い乗り物でしたが、それはあくまでも日中の事で、夜間に飛行することは不可能でした。当然ながら初期はあまり評価されていなかったようです。しかし自分の命をかけて操縦する冒険心あふれる人達と援護する地上要員達の努力で今日に到っていることがよく分かります。

  こんな記述があります。
「夜というこの暗い領土を、未踏の密林のように怖れていた。--- 夜が見せずにかくしている多くの障害に向かって時速200qで搭乗員を放つということは、軍事飛行のみに許される冒険として--- 昼間、鉄道や船に対して稼いだ時間を、夜がくるたびに失うことになる。」

        「この人生には解決策などないんだ。あるのはただ前進していく力だけだ」

今は先人達の限りない努力のおかげで、一番安全な交通手段として空を飛んでいます。
 
たんぽぽ、あんな本こんな本






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