《私の本棚 第182》   平成24年4月号

    「絶望名人カフカの人生論」 フランツ・カフカの手紙から

 1883年7月3日現在のチェコ生まれ。1924年没。

この本は福島県相馬市在住の方から 「面白かった」 と教えて戴き、早速読んでみました。本の題名は人生論となっていますが、これは彼が付けたのではなく、彼が友人などに宛てた手紙や日記などを、その内の一人が抜粋して纏めたものを、翻訳者が付けたものです。「名人」 とさらりと流したところが名訳とも感じます。

 何をしてもうまく行かず、彼の人生は挫折を味わうためにあるのではないかと言えるような日常です。

          将来に向かって歩くことは、ぼくにはできません。

          
将来に向かってつまずくこと、これはできます。

          
いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです。

このような言葉を沢山残しているのは、彼の生い立ちが強く影響していると思います。逆境を跳ね返して一代で財を成した父。その父の言うことに従ってきた母。父の言うことは全て正しいという家庭環境。カフカは自己主張をする機会が無かったのでしょう。何事もうまく行かないのが自分の人生であり、うまく事が運んでいるとそれは何かの間違いであるとさへ思っています。あの名作 「変身」 にも全く不満足でした。 この本を読みはじめて直ぐ感じたことは、東北の被災地域の人達が読んでも良いのではないかということでした。「頑張って下さい」 などというつまらない言葉 (否、逆に突き放しとも取れる言葉) より、ずっと励ましになるように感じます。事実、この本の後書きに同じような事が書かれていました。カフカほどとは言わなくても、長い人生にはどうすることもできないことが起こります。自分の気持ちを処理仕切れなくなることもあります。そんな時は 「いちばんうまくできるのは、倒れたまま」 でも良いではありませんか。倒れたままうつむいて思い切り泣けばいいんですよ。叶うものなら、背中をさすってくれる人がいれば最高です。少し気が晴れたらチョット笑ってみてはどうでしょう、おさな子のように。そしてまた、起き上がって前を向きましょう。

読み終わったときふと次の言葉が浮かんできました。

                                
しかし、投げやりにならず

                                
悪人にもならず

                                
自殺もせず

                                
短いながらも精一杯人生を全うした
 
彦根城の堀、あんな本こんな本




 彦根城の堀
 
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