《私の本棚 第174》   平成23年9月号

    「忘れられた日本人」  宮本常一 著

 民族学者。明治40年8月1日〜昭和56年1月、 山口県周防大島生まれ。生家は善根宿

 読者としては学問ではなく、「懐かしい日本人の風景」 として読むと大変興味深く面白い読み物です。著者は日本中を歩き、村々の古くからの習慣を古老に聞いたり、大切に保存されている書きつけを見せてもらって纏めています。昭和20年代に小さな村の古老に聞いた話や見たことですから、内容的には江戸末期を含み私達の全く知らない習慣です。ここに掲載されているのは、対馬伊奈村、長野県名倉村、土佐、伊予等など多くの村がでてきます。聞いたことはあっても、実際に体験したことのない習慣です。

 子供が増えすぎて困った農民が、その子を連れて旅に出、泊めてもらった家人と相性が良さそうなら、あくる朝その子を置いて (養子にだして) 行ってしまう。もらった家は実子と同様に大切に育てたという。同じ村の中で生涯を過ごす人もいる時代なので、娘も好んで遠くの町へ出て行き、下女働きなどをする。この娘が帰ってくると、言葉遣いも洗練されて村に新しい風を運んだと言われています。

 しかし何といってもエッと思うのは夜這いの習慣でしょう。言葉としては知っていても実体は知りません。悪いイメージだけがあるのですが、そうとも言えないような習慣であったようにも思われます。夜這いは娘の親も公認の行為だったようです。上手くいけば夫婦になるし、トラブれば、世話焼きばあさんが娘を他所の村に嫁にやる算段もしたといいます。今風に言えば同棲に近い習慣だったようにも思います。

 書き出しに善根宿とありますが、これは旅の人が宿を求めると布団と食事を無償で提供していた家の事です。
山口県豊北町に特牛 (こっとい) という地名があります。
その地に勤務する巡査に 「読めないでしょう、何か昔牛を飼っていた名残らしいですよ」 と教えてもらったことがあります。

 地名なので調べなかったのが、この本の中にコットイ (牡牛) という表現があり、念のためコットイを広辞苑で調べると特牛と書き、本来コトイと読むのが転じてコットイとありました。「こって牛」 という言葉は子供の頃に聞いたことがあるのですが、これは強健な牛のことを特牛の牛と書き、転じてこって牛になったものということです。
 
仙台七夕祭り、あんな本こんな本




 仙台七夕祭り

 2011.8


 
名取市閖上地区、あんな本こんな本





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 2013.4

 
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