《私の本棚 第261》   平成30年2月1日号

   「ゼンドミールの修道院」  グリルパルツァー作

 「ある伝承実話にもとづく」 と副題が付されていますが作者の創作です。ウイーンの辻音楽師ご紹介で触れましたが、不倫相手の女性 (従兄の妻) はその後悲惨な最期を迎えたということです。そこからこの作品が生まれているといわれています。
 題名のゼンドミールはポーランドの町ザンドミールを指すらしく、現在はサンドミエシュと呼ばれています。伝承らしく工夫し時代は更に過去に遡って書かれています。二人の騎士と召使いは旅の途中で日が暮れてしまい、修道院に一夜の宿を求めます。仕方なく開かれた扉。門番は二人の寝所と食事を用意しますが、修道院長も修道士もみな夕べの祈りのため挨拶できないと伝えます。確かに遠くから唱和する祈りのような単調な響きが聞こえます。休息を兼ねた食事をし旅の話をしているところへ、奇妙な風体の男が入ってきました。無愛想でぞっとするような目つき。この修道院の創建などを質問すると、気味悪くも訥々と語り出した内容がテーマの中心をなしていきます。恐らくこの男が修道院を創建した人物で、彼自身の贖罪を行って居るのでしょう。ひいては作者のグリルパルツァー自身を重ねているとに思われます。ミステリー風で面白いとも感じました。
 作者は過去に大きな過ちを犯した訳ですが、その贖罪の気持ちからこの作品を書いたのでしょう。修道院の奇妙な風体の僧侶に自分を重ねて、己をいじめて詫びているようにも感じます。不倫というのは世の中にはよくある話といえばそれまでですが、そんなことをなんとも思わずに生きていける人間とそうではない人間がいます。昨今では政治家のそれが大いにTVのネタになりました。引責する者開き直る者多様です。まあ、自分の仕事 (平たく言えば生活費を得る手段) やその使命を考えれば自ずから行動基準が見える筈のものなのですがね。ともあれグリルパルツァーは自分の性格にはそぐわない行動を取ってしまった結果、この作品で詫びるしかなかったのでしょう。
 
修道院内部(フリー素材)、あんな本こんな本




 フリー素材

 (京都 聖アグネス教会とは無関係です)

 
京都聖アグネス教会、あんな本こんな本





 京都 聖アグネス教会
 
  
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