《私の本棚 第255》   平成29年10月01日号

     「虫のいろいろ」 尾崎一雄 作

 明治32年 三重県生まれ。29歳頃から凡そ5年間スランプに陥り心の転機を求めて志賀直哉を訪ねてもいます。この作品は昭和23年に発表。
 題名からするとなにやら昆虫を観察して面白おかしく筆を運んだのかと想像します、しかし内容はそのような明るいものではなく、距離を詰めるでなく離すでなく、どうしたいのかとも見えます。登場するのは蜘蛛・蚤・蝿です。 日常生活の場からそう動く必要がないところで出会う、可愛くも美しくも無い虫を観察しています。家蜘蛛を捕らえてトイレの窓ガラスと網戸の間に閉じ込めます。ほぼ2ヶ月間その中で耐えた蜘蛛は偶然の一瞬のチャンスを捕らえて逃げました。作者はこの蜘蛛を何か研究っぽく観察していたのではなく、只単に何処までこの境遇に耐えるかを見ていたように思います。 
 蚤は何処かで見たのか聞いたのか、曲芸をする蚤の事に触れています。この蚤は繰り返し繰り返し置かれた環境から逃げだそうとしますが、遂には諦めて蚤使いの思うままに一生を終えます。
 蝿は病床にある作者の顔にまとわりついて、何度追っても戻ってきます。額に止まった瞬間に眉をつり上げて皺で蝿を捕獲。そのまま子供を呼んで、蝿を捕るように言いつけます。
 全体に何が表現したいのか分かりにくい作品です。しかし最後の数行に作者の思いが込められているように感じます。蝿を退治した子供達が面白がって各自の額をなでながら笑っていたのですが、それを見ていた私はこう言います。

    「もういい、あっちへ行け」 と云った。少し不機嫌になって来たのだ。

 蜘蛛も蚤も蝿も、自分に重ね合わせてそのもがく様子を観察していたのではないでしょうか。
誰にでもそんな時期はあり得ますよね。もがき苦しみながら抜けだそうとする。しかし偶然のチャンスがいつ来るのか分からない。今の忍耐と努力がいつ報われるのか分からないが、耐えるしか無い。
 
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