《私の本棚 第249》 平成29年6月14日号
1874年生まれイギリス人。随分長い間気にかかっていた作品です。今頃になってようやく読むことができました。ゴーギャンにヒントを得て書かれたという事ですが、解説を読まなくとも次第にそれと察しがついてきます。 主人公ストリックランドと、彼の不思議な魅力に惹かれてつかず離れずの距離を保つ私。ストリックランドは何ものにも関心を持たない。相手が何を考えていようが、悲しもうが喜ぼうが一切動じない。心が強いと言うのではなく、全くの無関心。唯々絵を描ければそれで満足。食事にありつけなくても自分の体が病におかされてもどうでもよい。一方の私は作者本人として描かれているわけでもない。淡々として誰か第三者として登場しています。 情景や心象表現が大変きれいな作品です。そう、俗な事に例えれば、優雅なレストランで次々にテーブルに並べられるご馳走の数々、お替り自由な色とりどりのバイキングデザートということでしょうか。私は読み進めながら少々食傷気味にも感じました。時にはお茶漬けもほしいな・・・と。 「私」 は誰か第三者と言いましたが、ごく初めの文章に 「わたしはあくまでも自分の楽しみのために物語を書く。ほかの目的を持って小説を書こうとする者がいれば、それは大ばか者だ。」 という一節がありますから作者自身を 「私」 としているのかも知れません。しかし進むほどに 「私」 はつかみ所の無い個人になっていきます。 終わりに近い部分に医師の話が出てきます。トップの成績に終始した優秀な医師と、いつも二番手に甘んじていた医師が立場を逆転します。この箇所は医学校で学んで医療助手として働いた経験が幾分か表現されているのではないかと思います。良い作品でした。 |
写真はウエブサイトから借用しました。 (どことなく良くにた雰囲気ですね) 左、サマセット・モーム 右、ゴーギャン自画像 |
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