《私の本棚 第224》 平成27年9月号
著者は建設省のダム行政に携わり、全国を歩くなかで常識とされている日本史の出来事を違う角度で考察しています。氏の結論が正しい歴史認識の全てではないでしょうが、大きな位置付けであったことも確かそうだと思われます。歴史上のできごとは、誰が何故そう考えて行動したかを詳細に書き残されているわけではなく、ましてや権力者のトップが密かに思い描いたことを、そのまま配下の人に話すわけでもありません。違う理由付けを行いそれで人を動かすことは十二分にあります。そこから謎が後世に残され、謎を回避するために後世の人が表面上の理由を鵜呑みにすることは多々あるでしょう。 関ヶ原の合戦後の江戸はどういう場所であったか、信長が比叡山を焼き討ちにしたか、頼朝はなぜ鎌倉に幕府を開いたか。京都が都になった理由とともに奈良が何故発展を遂げなかったかなど、その地形から色々と推測されています。こういう推論からヒントを得て異色の小説をモノにする作家が出てきても良さそうに思います。 征夷大将軍について書かれた所ではアリスロバーツ著の 「人類20万年遙かなる旅路」 を思い出しました。人類は農耕をするようになった人たちが狩猟採集民を知らず知らずに追いやっていきます。夷という文字は人が両手を広げて弓を引くという話を聞いて狩猟採集民の事を指すと知ったと書かれています。その字解に関しては私の簡略版 常用字解 (白川静 編)では確認できませんが、何となく正しいように思います。かつては北の蝦夷を指していたのでしょう。 近代日本の総理大臣は山口県出身が多いのですが、その理由もなんとなく感じます。海で活躍の場を持っていた毛利輝元は、家康から広島城を捨てて萩に移封されました。著者は毛利を山の民 (狩猟民) になぞらえています。瀬戸内海へ出ることができなくなった毛利は疲弊しますが、干拓と農業・塩業で力を蓄え明治を迎えます。ここで徳川家と毛利家が260年の時を経て主従逆転を果たしたと言えそうです。 歴史の授業時間に、チョット楽しい物語としてこの著作のような話を織り込んで貰えれば楽しい (無意識に覚えてしまう) でしょうね。 |
三内丸山遺跡 (クレーン車からの 展望) |
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