《私の本棚 第180》 平成24年2月号
1859年スコットランドのエディンバラ生まれ。この作品は1890年発表されました。 登場人物はお馴染みのシャーロック・ホームズとワトスン博士のコンビです。何の手がかりも無いように見えるところから、鋭い推理でいとも簡単に犯人に迫っていきます。道具立てとしてはそれほどこみ入ったものはありませんが、読んでいると現代のFBIが行っているプロファイルという手法と同じように感じます。大英帝国時代を彷彿させる事件の舞台設定や人物、宝物や美しい女性のお膳立て。なかなか楽しい推理小説です。 多少驚いたことがあります。一つはいきなりホームズがコカインを使用する場面が出てきます。時代的には未だ禁止薬物ではなかった為に、使用する人も少なからずいたのでしょうか。今一つは、犯人追跡中にホームズとワトスンが拳銃で犯人を射殺するという場面です。私立探偵と求職中の軍医が拳銃を所持しかつ実際に使用する。当時のイギリス国内では一定の法律があって、その様な行為はさほど問題にはならなかったのかと不思議です。 更に驚いたのは 「シャーロキアン」 と呼ばれる熱烈なホームズファンが世界中にいて、作品を聖典と呼び作中の出来事をほぼ諳んじている読者がいるということです。その人たちの関心は、作品そのものを超えて、ワトスンは男性ではなく女性であったとか、ワトスンは怪我をしているがそれは体のどこであったとか、凡そ作者の意図しなかったであろう事を熱心に研究 (ゲームを楽しむ) しているらしいのです。敢えて言うなら、松本清張のような緻密な設定ではなく、暖炉の前でロッキングチェアーに腰掛けて、パイプ煙草でもくゆらせながら読めるからなのかも知れません。 どこかで007のボンドさんにも繋がっているような気がするのは私だけでしょうか。 |
賀名生(あのう)梅林 |
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