《私の本棚 第299》   令和3年3月14日号

      「椿説弓張月」  曲亭馬琴  作
             岩波書店・日本古典文学大系より

 この作者名はなぜか滝沢馬琴と記憶していました。滝沢は本名ですから間違いではないのですが作家名は曲亭ですね。父親は旗本松平信成の家老でしたが、馬琴が幼少の頃死去。その後苦難の曲折を経て読本 (よみほん) 作家として成功しますが、晩年はまた多くの不幸にも見舞われています。1848年11月6日に82歳で没しました。
 彼の作品は洒落本や滑稽本とは異なり、理知的・学問的所産であったから主として武家の間に愛読され、近世小説のうちで最も高級な作品とされていたと解説されています。
 椿説弓張月は 「鎮西八郎為朝外伝 椿説弓張月」 と称されていて、椿説は珍説として用いられており、弓張月は主人公が弓の名人 (五人がかりでも引けないような強弓と表現されています) から名付けられたということです。物語は伊豆七島から九州・琉球を舞台にした源為朝の物語です。解説によると、保元物語 (未読) では為朝は伊豆の大島で討ち死にしますが、馬琴は為朝の人徳が高いことを惜しんで、大島では死なせずに琉球に渡って活躍させる風に書いたとしています。このあたりも武家が愛読した一因かも知れません。確かに読本においても、伊豆では死んではいなかった書きぶりが、前後から少し唐突さを感じさせました。しかし、全体を通して主人公の人徳は遺憾なく表現されており、猛々しさよりも穏やかな人柄を感じさせてくれます。解説のように武家に愛読されたことも頷けます。
 古典を読むのはなぜかしらほぼいつも寝床の中です。一巻凡そ500頁でしたから、仰向いて手で支え頭注も参考にしながら読むのはそれなりに困難もありますが、この姿勢が気に入っています。読んでいて気づきましたが、挿絵は葛飾北斎が描いたものでした。ただ解説によると版木で印刷していましたし、何度も刷ったり出版元が変わったりすると版木に手を加えていたりだったので風合いが異なるものがあるようです。私が読んでいた書籍の挿絵はどれに該当するのか定かではありませんが、素人ながら何となく異なるものがあるように感じました。
 奥書にも (PDF掲載できませんが)
    「編者 曲亭馬琴  落款」    「畫工 葛飾北斎  落款」    「劂人 櫻木松五郎 刀」 
と明記されており、発販書肆も記載されています。冨嶽三十六景の北斎がこのような版を残していることは初めて知りました。
「歳を取ったら読みたい」 として購入してあった古典文学全集百巻は、何巻まで読み切れるでしょうね。色んな意味で頑張らないと・・・。

 
白木蓮、あんな本こんな本 


 白木蓮(しっかりと咲きました)

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