《私の本棚 第241》   平成28年12月号

     「浮雲」  二葉亭四迷作 

 1887年 (明治20年) 発行。この作品で初めて二葉亭四迷と称した。口語体で書かれた日本最初の作品。
冒頭のはしがき (序文) には、坪内逍遙に触発されて、明治維新後西洋の文化が入ってきているのに黴の生えたような文語文ではどうしようもない、言文一致の小説を書こう。という言葉が述べられています。小説を書くということは 「つまらないこと」 とされていた時代です。ご存じの方も多いように、小説を書くなんてどういう了見だクタバッテシマエから、二葉亭四迷の号が生まれたということです。親からそう言われたとか、自分自身に向けて発した言葉だとか言われています。
 主な登場人物は私文三・叔母お政・従妹お勢・私の友人本田。私は叔母の家に寄寓し下級官吏として働いています。お勢は文三に触発されて学問を含めて習い事に精を出していました。お政は娘お勢の婿に丁度良い男として文三を買っています。文三もお勢のことを何となく意識していました。 そんなある日、上司にゴマをする事が嫌いな文三は免職されてしまいます。逆に本田は太鼓持ちか幇間かというような行動で、一等級昇進し俸給も五円アップの三十五円になります。
 このような状況の中で、本田は文三の友人からお政とお勢の親しい知人へと昇格していきます。自分の信念を曲げることのできない文三、娘を大切に思うお政、少しは揺れ動く難しい年頃のお勢、現代で言うチャラオの本田。お勢・文三・本田の三角関係のような状況の最後は読者にお任せで終わっています。現代人が読んでもさほど違和感がない作品です。
 文三と本田の関係は、三木清の人生論ノート、「嫉妬について」 にそのまま当てはまるような気がします。
因みに明治の1円は現在の価値に換算すると、3,800円という人もいれば2万円という人もあります。少し高めな処を取って1万円という所でしょうか。すると本田は30万円の給料が35万円にな
ったといった設定でしょうかね。 
浮き雲、あんな本こんな本




   木津川サイクリングロード
   京田辺市付近からの眺め

 
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