《私の本棚 第219》   平成27年4月号

     「無縁佛」      池田 みち子 作

 新聞の片隅の紹介で知った作品です。作と記しましたが「著」の方が合っているのかも知れません。この作品は1979年に書かれています。当時の様子も今の様子も全く知りませんが、一種異様な雰囲気が漂う町であったと思います。東が山谷なら西はあいりん地区。私は大阪通天閣の付近を所用で歩くことが何度かありましたが、一昔前は特にする事もなくたむろする人達や酔っ払って道ばたに寝転がる人を目にしたことがあります。寒い冬の日に下着同然の姿で震えながら 「お金がないんです。めぐんでください」 と書いたプラカードを首から下げて立つ男性を見たことがあります。一瞬、千円札を何枚か差し出そうか? 何か安いモノでもいいからジャンパーでも買ってきてあげようか? と思いましたが、何故かしら出来ないままで終わりました。記憶から消え去りません。
 この作品を読んでいると、作者がドヤ街の住人たちとそうでない普通の人たちとの狭間に生きているという感触が伝わって来ます。冒頭に 「作か著」 か迷うと書きましたが、恐らく実体験を名前を変えて書いてあるだけのように感じます。何かを考えさせるような文章ではなく、見たまま感じたままを文章にしたという作品です。彼・彼女らの人生観がもっと強く出ていれば優れた作品になっただろうとも思います。作者自身あまり売れない作家として収入は得ているが、何かを書くときには山谷のドヤ街で寝泊まりしていないと書けない。作者の肌とドヤ街の空気が相性が良いと見えます。
 そんな気分のままで後書きを読むと、娼婦ばかりを書いていた時期があり、今は山谷ドヤ街ばかりを書いているらしい。そして彼女自身、自分の性格の中にドヤ街の住人たちと同じ様な崩れている部分がある、と書いています。読み物として面白いというのではなく、こういう世界があるのだという発見でしょうか。
 
あんな本こんな本、タンポポ





 道端のたんぽぽ
 
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