《私の本棚 第210》   平成26年8月号

     「子どもの難問」      野矢 茂樹  編著

 子どもが発する自然な質問に、戸惑い答えられないことが多々あります。そんな問に哲学者の先生達が答えていて、改めてなるほどと思うことがありました。
野矢先生が質問を考え出して、他の先生が答える形をとっています。もともと中学受験の進学塾が発行する月刊誌に掲載されたものですが、小学生がこれを読んでいたことにも感心させられます。 質問を列挙すると、「ぼくはいつ大人になるの?」 、 「勉強しなくちゃいけないの?」、 「人間は動物の中で特別なの?」、 「自分らしいってどういうことだろう?」、 「友だちって、いなくちゃいけないもの?」 などなどです。ずいぶん長い間生きてきた私も、すんなりと答えられない問いかけです。これらの中でも私が特に感じたことを話したいと思います。
 人間は動物の中で特別なのかという事に関して、本を読む前夜偶然にTV番組で似たドキュメンタリーを見ました。こうです。
ホームレスと犬や猫との関わりを撮り続けているカメラマンがいました。ある河川敷に住むホームレスの男性はカラスの雛を保護したり、子犬が見当たらず乳の張ったメス犬を保護したりしていました。その犬はある日生まれて間もなく捨てられた子猫をくわえて帰ってきます。自分の乳でその子猫を育てました。
 事業に失敗したこの男性は何かに引かれるように、木にロープを掛けて首に掛けます。その時、犬と猫がズボンをくわえたり引っ掻いたりします。カラスの雛までもがつつきます。 …我に返った…と言います。    ---人間は特別なのでしょうか。
 もう一つ、「幸せって、なんだろう?」 です。土屋賢二先生はまず一言 「定義するのも実現するのも簡単ではない」 と前置き。お終いにこう結んでおられます。ハゲて太った夫を、自分の幸せを阻む邪魔者と思っていた妻の多くが、大震災のときには、どんなに醜くても生きていてくれさえすれば幸せだと思いました。心のもち方でこれだけ変わるのです。「五百年いきなきゃイヤだ」 「資産百兆円の大富豪でないと不幸だ」 などと考えて一生不幸な思いをする可能性もあれば、逆に、不幸の原因が無数にあるのに、どれも起こらず、何事もなく暮らしている毎日がとてつもない幸せだと考えることも可能です。さまざまな可能性があるのが 「幸せ」 の特徴です。その可能性を選べるのが人間の特権です、と。

        私はこれを大人向きに説いたのが 「吾唯足知」 だと思います。 
蓮華、蓮、あんな本こんな本






 
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