平成25年正月閑話

      嬉しくてやがて寂しき・・・

 昨年4月28日 朝7時6分の新幹線の乗って青森県五所川原に着いたのが午後1時53分。早い!。-ふるさとの訛り懐かし停車場の-なんて風情は無い。到着して早々に津軽鉄道ストーブ列車に乗車し金木まで行く。この季節にしては例年になく暖かいので、ストーブ列車に乗ったという事実限定の満足感を味わう。金木は太宰の生家があって知られた所だが地吹雪でも有名な土地。まるで旅館のような建物の見学をして外を見ても、真冬の厳しさは想像できない。五所川原へ引き返す列車を待っていると先程のストーブ列車が折り返して入ってきた。若い車掌さんは余程気に入っているのか帽子のベルトをきっちりと顎に架けている。ほのぼのとした何とも言えない幸せ感が伝わってくる。五所川原へ戻ると立佞武多の見学をした。この勇壮な佞武多が夜の町へ出陣する所を機会があれば見たい。
 一夜明けて、今日は弘前城の桜見物と五能線の旅を予定している。早朝の列車で弘前へ向かう。弘前城の桜は本当に華やかで心が浮き立つ。地元でしかも時代を遡って生活していた人達は、雪に閉じ込められた後にこの桜を見てどれほどの笑顔をしていたか想像に難くない。岩木山に残った雪を同じようにながめて居たことだろう。ぶらぶらと歩きながら近くにいた人に今日の陽気を尋ねると、異常に暖かいとのこと。弘前駅から東能代へ向かい、いよいよ五能線の乗客になる。秋田から来た青池号に乗ると凡そ70qくらいが海岸線の景色を満喫する旅になる。乗客もさほど多くなく展望デッキを独り占めして、子供のように窓に顔を押しつけてひたすら海を眺め続けた。あきた白神駅では可愛い女性の駅長さんを拝見するというおまけ付きだった。心の洗濯というのは何も考えないこんな時間を言うのだと感じる。
 三日目の今日は更に早起きをして十和田湖へ向かう。黒石の虹の湖辺りからは残雪が多い。その雪を少しずつ溶かしながら蕗のとうが頭を出していた。採る人も無いのか鎌を持ってきたくなるくらい群生している。あの峠を越えれば十和田湖だとわくわくしていると、そこは春まだ浅い墨絵のような寂しい風景だった。発荷峠から花輪市へ出て宿をとった。
 さて今日の予定は花輪線と奥羽本線、更には秋田内陸縦貫鉄道を利用して角館へ向かう。いいなあ!内陸縦貫鉄道は。沿線風景も駅名も何もかもがいい。いつか又乗りたいそんな鉄道だった。角館の気温は何と35度を超えている。テレビで見慣れた武家屋敷通りをのんびりと歩く。やはり日本の春は桜に限る。これほど心を和ませる大きくて古くて、それでいて美しい花を咲かせる木は他に無いのではないかと思う。たっぷりと桜を堪能してから六郷湧水群の見学へ出発した。今日の宿泊は秋田県湯沢市。東北地方へ来ると高校生達の礼儀の良さが気持ちいい。この子供たちも近い将来都会へ出ると、薄く濁った色に染まっていくかも知れないと思うと寂しい気持ちになる。
 旅も五日目、今朝の起床も早かった。仕事では考えられないスケジュールだ。残雪も蕗の薹も十和田と似た感じだが、ここまで来ると土筆が加わった。土筆もやはり鎌が必要なほど勢いが良い。金山町という一寸津和野に似た町を経て、サクランボの花が咲く中を天童まで来た。山寺に上がると眼下の町並みを見て心が落ちつく。山形駅近くのホテルに宿泊。天気予報では明日は雨らしい。
 久しぶりにゆっくりと起き出して、10時27分の列車で米沢・坂町を経て新潟市まで移動。バラエティーに富んだ旅で楽しい。雨に霞む景色を眺めながら新潟に到着。市内を見学し、明日は富山経由で京都へ戻る予定だ。列車の中で読む本を物色した。
 肩の凝らない本を二冊持って京都へ向かったが、本の選択もなかなか難しい。社会へ出て間もない頃に 「歳を取ったら読もう」 と思って日本古典文学大系を全巻買っておいた。歳を取ったらというのが幾つの事を指すのか自分でも判然としないまま今日まできた。読書というのは結構疲れるもので、それなりのエネルギーを必要とする。まだ元気と思ってはいるが、どうもそうでもないと感じるときがある。古典籍以外にふと読みたいものが目の前に現れることもある。ローマ人の物語やルーゴンマッカール叢書がそれで、読まなければならない印刷物が次々と出てくる中で、読みたいものを挟んでいくと歳を取ることさへ簡単ではないように思える。つい最近も雑誌を読んでいるとドラッカーに関連する記事が目にとまった。何の為にという疑念を伴いつつも 「ドラッカーの著作を全部読んでみようかな」 なんていう気持ちになった。まだまだ歳は取れそうにない。
 書店の二階にあるCDレンタルショップに行くと店員が 「あ、お客様はシルバーエージですので、一枚無料レンタルサービスが付きます」 と言われた。どうせ損して得取る商売なんだからと思いつつも少しは嬉しい。サッパリしようとついでに散髪屋へ行った。はいお疲れ様でしたと言われた後、「シニアサービスで料金はこれだけになります」 と言われる。あれ?また?と思った後嬉しかった気持ちが次第に一抹の寂しさに変わってきた。
 
弘前城、シダレ桜、あんな本こんな本





 弘前城 シダレ桜
 
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