《私の本棚 第185》   平成24年7月号

    「マテオ・ファルコーネ」   プロスペル・メリメ 作

 メリメは1803〜70 フランスのパリ生まれ。

 小学生の頃に読んだ記憶があり、なぜか題名だけを鮮明に覚えていました。物語の舞台はコルシカ島、主人公のマテオは比類なき銃の名手です。結婚して三人の女の子に恵まれますが、その後やっと男の子が誕生します。フォルトォナートという、イタリア語で幸運なという意味の名前を付けます。家名を継ぐ子供としてたいそう期待をしていました。しかし、自分と妻がこの子だけを留守番にして羊の見回りに行った間に大事件が起きてしまいます。
 お尋ね者がコルシカの憲兵隊に追われ、足を撃たれながら助けを求めてきました。5フラン銀貨と引き替えに隠してやったのです。しかしその後を追い掛けてきた憲兵が高価な銀時計をちらつかせた誘惑に負けて居場所を教えます。そこへ帰宅した父マテオは事の経緯を知りました。彼は大切にしていた10歳の息子を自分の手で銃殺します。
 この物語は読者の子供達に 「約束」 の大切さを教えています。例えお尋ね者であっても、一度交わした約束は違えてはならないという、人間としての信念を問いかけているように思います。生き方や心の貴賤とでもいうのでしょうか。一旦約束したことを、それ以上の高価なものを目の前に置かれるとたやすく反故にする。それでは人としての信頼は成り立ちません。約束は守るべき大切なもの、できない約束ならするなということでしょう。
 父親のマテオはその点においても激しい信条の持ち主だったようです。フォルトォナートという名前を付けたほどの息子を、自ら処刑しなければならない悲しさを秘めています。
 
花の彩り、あんな本こんな本




 島根県美保関

 関の五本松で見た色彩

 
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