《私の本棚 第157》   平成22年3月号

    「フランダースの犬」    ウイーダ 作 

ウイーダ女史は1839年イギリスで生まれ、イタリアのフィレンツェで永住しました。「ニュールンベルクのストーブ」 とともに代表作。

 この作品はあまりにも有名で、子供の頃から親しんでいることもあり、子供向きの作品という思いが強かった。それだけに読書感想を書くために読み直すということも億劫でした。しかし、読み直してみるとそんな思いは何処かへ消えてしまった。人が他人に対して持つ色々な愛情の形を見る事ができます。お爺さんのネロに対する愛。ネロと愛犬パトラシエの愛。コゼツ旦那とその奥さんと娘アロアへの愛。お爺さんとネロに対する近隣住民の愛。みんな他人を愛する気持ちは持っているが、その立場によって愛を表現する形が違う。粉屋のコゼツ旦那は、金持ちで地域の有力者。ネロの絵を描く能力と、姿が美しく、更には何といっても心根が優しい所を気に入っている。しかし、ネロは乞食同然の生活。そのネロと自分の娘アロアが厄介な関係になることを心配している。それは子供の親としては尤もな愛情表現。近隣住民はコゼツ旦那がネロを避けていると知れば、有力者の意向に逆らわないように、ネロを避ける。ある雪の深い日、コゼツ旦那は大金を落として破産の危機に瀕するが、ネロがその金を届けます。あきらめて帰ってきた旦那はその顛末を知って、

---恥ずかしさと恐れのあまり、顔をおおってしまった---。恐れはコゼツ旦那のネロに対する仕打ちを悔いての恐れであり、ネロの真っ正直で美しい心に対する怖れ (畏怖) でもあったと思います。人は生きていく上で、心の中に秘めた気持ちと表現する形は、往々にして違ったものになる。否、違ったものでなければならない場合がある、という矛盾を認識しながら生活をしている。

 全体を通じてネロとパトラシエの無償の愛情、アロアの透き通るようなネロに対する愛情が、子供達にとって大切なものは何かということをよく表現しています。  ウイーダ女史は1908年に窮乏の中でその生涯を閉じたということです。
 
花ニラ、あんな本こんな本




 花ニラ
 
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