《私の本棚 第286》   令和元年10月1日号

    「パニック」   開(かいこう) 健(けん) 作

 1,957年作。作者の作品で最初に読んだのは 「オーパ」 でした。友人が釣り好きで、面白いから読んでみろと言って貸してくれたのです。本当に楽しく読んだことを覚えています。ただ、その時には小説家だとは思っていなかったように記憶します。小田実と一緒に「ベ平連」で活動していたことはその本で知っていました。
 そういう活動をする心の素地が有る人だからでしょうか、この作品は何かしら今まで読んだことの無い雰囲気があります。市役所の山林課に勤務する俊介は、鼠の大発生を予測し上司に対して色々と進言しますが、取り合ってもらえません。この地方では昨年笹が一斉に開花し鼠が大発生。そうなると今後この地方の笹が枯れ死した後農作物に甚大な被害が出ると思われます。遅ればせながらイタチの放逐なども手を打ちますが手遅れです。ある日大発生した鼠は大群を為してむやみやたらに野を横切り、川に入って死んでいきます。
 本当に鼠がこのような行動をとるのかと思って調べましたが、北欧にそのような例があると書かれていました。真偽の程は分かりません。 ただ、この作品では役所の事なかれ主義やわが身に問題が降りかからないように処する生き方。鼠は臆病な小動物ではあるが発作的に集団行動をすると、人間も対峙する手立てを失う様子を比喩的に描いたものであるかのように読めます。
 蛇足ですが、作者のふりがなは敢えて書きました。本人が仰るには、 「かいこうけん」 が本名の読み方だけれども、出版社から原稿の催促で 「もう書いたか?けん?」 と問いかけられる中、「かいたかけん」 と呼ばれるようになった。というような事を書かれていました。 
 
宮沢賢治記念館、バート・ド・ベール技法、あんな本こんな本 

 パート・ド・ベール技法による
 世界最大のフクロウ像

 宮沢賢治記念館



 

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