《私の本棚 第158》   平成22年4月号

    「八咫烏」    司馬遼太郎 作

 昭和36年作。神話に登場する人物を題材にして、話を膨らませています。

舞台は紀州、牟婁の国 (今の勝浦)。海族 (わだつみぞく) の地に、仲の悪い出雲族の女との混血児である八咫烏と呼ばれる男が住んでいた。八咫烏は顔も心も出雲族であったが、生まれ育ったのは海族の地。さげすまれても、仲間はずれにされても懸命に追従して生きていた。ある日、大和の出雲族を平らげて豊饒の地を手に入れようとする海族が日向からやってきた。八咫烏はその案内役として、大台ヶ原や大峰山を経て大和へ案内し、武功を立てます。

 作者は最後に、「八咫烏の妻が海族であったか、出雲族であったか、そこまで憶測するに、作者の興味はつきた」 と書いている。直木賞を受賞した直後の作品であり、八咫烏は何か依頼されて書いた小品だと感じます。因みに大台ヶ原山頂にはどのようにして建立したのかと思うような巨大な日本武尊 (やまとたける) の石像が設置されています。八咫烏は熊野神社の護符にも描かれています。記紀伝承には神武天皇東征の時、熊野から大和へ入る道の先導を勤めた三本足の大烏とされています。

という字は、よくご存じのように真っ黒い鳥で目がどこにあるか分からないので横棒を一本取った字ということです。

また別に (からす) という字もあります。これは、はしぶとがらすを指します。文字に牙がついているのはガアガアという鳴き声から来るのでしょうか。すると、疑問詞や感嘆詞に用いる嗚乎 (ああ) は、はしぼそがらすの鳴き声から来るのでしょうか?全くの憶測で確信はありません。
 
錦湾、三重県度会郡大紀町、あんな本こんな本




 錦湾

 (三重県、度会郡大紀町)

 
   前の頁、フランダースの犬    次の頁、宝島    VolV.目次へ    VolV.トップ頁  

  Vol.U トップ頁   Vol.T トップ頁