《私の本棚 第228》   平成28年1月号

     「学校では教えてくれない日本史の授業」  井沢元彦 著 

 何か歴史上のできごとを思い浮かべようとするとき、記憶呼出のヒントになるかと思い開きました。孫の勉強を傍で見ていると、世界地図帳を広げて無味乾燥に国の場所を覚えようとしています。その地図のいくつかの国にはヒントになるような産物や観光地などの絵が小さく書かれています。しかし、学校でその部分の関連性を習っていないので、見れども見えずなのでしょう。その絵を指しながら色々なことを話して聞かせたり、地図帳から読み取れることを話しました。彼女はその後何時間か懸命に地図帳を読み込んでいました。
 歴史も同じ事が言えます。高校の日本史や世界史はとにかく暗記せよと言われましたが、よほど好きで無い限り、そういつまでも記憶に残るものでもありません。この本を読んでいると、歴史上のできごとはそういう見方捉え方もあるなあと思えます。現在進行形の歴史 (日々の出来事) でさえ様々な評価があるわけですから、生き証人のいない時代の出来事は、真実は何も分からないというのが本当でしょう。
 信長の比叡山焼き討ちに関しては、竹村公太郎氏の 「日本史の謎は地形で解ける」 の見方と異なり、両著者の 「切り口」 の相違がよく比較できます。竹村氏は岐阜と京の通行要衝として僧兵が邪魔であったとし、井沢氏は比叡山が油座という経済既得権を牛耳っていたから自身の楽市楽座の敵として焼き討ちにしたと述べています。いずれの説も正しいのだと思われます。井沢氏の油座という観点からの説を紹介します。
 斎藤道三は信長の義父に当たります。道三は油商人の山崎家に婿入りし、山崎庄九郎として、諸国に油を売り歩きます。しかし、由緒ある武士の家に生まれた道三は、この成功に飽き足りませんでした。そこで武士になることを考えて、美濃国守護代の長井家に仕え、その家臣西村家の名跡を継いで西村勘九郎と名乗ります。
(諸説ある中では、ここまでは道三の父の業績ともいわれています) その後同じ美濃国守護の土岐家に取り入った後、守護を追い出すとともに主家の長井家を乗っ取り。その後更に、美濃国守護代の斉藤家を乗っ取って斉藤新九郎と名乗ります。道三は主君・ョ芸から側室の深芳野を下げ渡されますが、この時長男の義龍を妊娠していたらしいのです。結局道三は、義龍は頼芸の子供という公然の秘密を逆手に取って土岐家以来の家臣達を押さえ込んだのではということです。
 1555年義龍は弟二人 (道三の実子) を殺し、道三とは義絶。この過程で道三は、濃姫 (娘) を嫁がせた信長に美濃国の譲り状を書いています。道三はうつけ者と笑われていた信長と初めて対面した時、一目で、いずれ自分の息子や家臣達はこの男に仕える事になるだろうと見抜いていました。 後に天下を取る信長は楽市楽座を設けて市場開放を行いますが、この時油座を牛耳っていた寺社勢力、中でも信長を仏敵と言っていた寺社勢力、中でも信長を仏敵と言っていた比叡山を焼き討ちにしたとも述べています。
 時代は遡って1185年3月壇ノ浦の戦いです。平家の得意な水軍合戦 は 源氏の不得意戦法でした。自軍の劣勢を知った義経は平家の水主 (かこ) (漕ぎ手) を射るように命じます。当時の暗黙の了解事項では水主 (かこ) は攻撃しないのがルールでした。騎馬戦の馬と同じ考え方なのでしょうか。水主を失った平家は潮流の早い馬関海峡で全滅します。
 再び時代を下ると、1575年長篠合戦では、正々堂々と?真正面から騎馬で突撃する武田軍を、馬・人の別なく鉄砲で倒しました。義経が平家水軍の漕ぎ手を射たのは当時では恥知らずな極悪行為でした。また、信長が武田軍の馬を撃ち殺したのも非道な行いでした。どちらも現代に生きる私から見れば当然の戦略です。水主は船のエンジンにあたりますから、これを止めれば海流と相まって効果的です。馬で大挙突進してこられれば兵は避けるしかありません。
 しかし当時は大将同士が一騎打ちを行い、一方が負ければ戦は終了。敵軍に向けて鏑矢を射、その音で相手を威嚇できるような時代でした。しかし近現代の戦は 「味方の損害は最小限に、敵の損害は最大限に」 というのが求める結果です。戦争に賛成する人は誰もいないでしょう。しかしその戦で使われる兵器が問題なのでは無く、如何にして戦にならないようにするかということが求められる英知なのだと思います。積極的にしろ消極的にしろ、平和を当然として享受するだけではどうにもならないことは、多くの人たちが分かっていることだと思います。

 どちらにしても井沢氏の言う「歴史を動かしたのは悪人たちの欲望」だったというのは間違いない一面だと思います。 
下関砲台、あんな本こんな本



 壇ノ浦

 本州からのながめ

長州砲(八十斤カノン砲)
レプリカ
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