《私の本棚 第225》   平成27年10月号

     「火花」  又吉 直樹 作 

 第153回芥川賞受賞作。TV等の番組の中で蔵書が多いとか多読であるとかいう事は流れたことがあり知っていました。芸人やアスリートにも沢山本を読んでいる人はいますが、なにかしらこの人は少し違っていて、いつか何かを書くような気はしていました。異例の経歴ということでお祝いを申し上げたいとは思いますが、凡そ 「物書き」 と呼ばれる人たちは皆似たような経歴の持ち主ですから、さほど驚くには当たらないでしょう。
 私は受賞作として世に出る最近の作品は殆ど読みません。世間の風潮に流されるのが嫌いな人間でもあるのですが、読書に充てられる時間なんてそう多くないのですから、できるなら時という歴史の波に洗われて残ってきた作品を読みたいと考えています。特に受賞インタビューの印象で好ましいと感じなかった作家の作品は生涯読まないと思います。何故なら私は自分という狭い人生を過ごしているのですから、別な人の別な人生から学べるものは学びたい気持ちだからでしょう。好ましいと感じない人の人生を知りたくはありません。
 又吉さん ---お笑い芸人としてTVでお馴染みだから許されるでしょう--- の作品はやっと文藝春秋9月号で読みました。全体を通しての印象はさほどインパクトのあるものでは無いと感じました。芸能人の浮き沈み、TVや舞台で見せる表の顔と私生活の顔は違うということは日頃理解しているつもりです。時々見る集団的お笑い番組出演者の、ボケや突っ込みを入れるタイミングやその時の表情から、彼等がどれほど努力しているかということは充分感じ取っています。
 読後感は 「次の作品は書けるのかな?」 というのがまっ先に浮かびました。続いて、「僕」 は又吉で 「神谷」 はあの芸人○○をコピーしているかな?。僕と神谷の掛け合いシーンは少し長くないか?。エンディングの落ちは題名の火花と上手くマッチングしていないのではないか?。などと素人のくせに随分偉そうな事を思ってしまいました。しかし、選考委員の方々の評を読むと多かれ少なかれそのような内容のコメントをされていましたから、中らずと雖も遠からずなのでしょう。
 私が読みたい小説は、私が経験していない人生を見せてくれる作品です。作家からすれば、自分が経験した人生をそれとなく描き出して、 (作り事を描いても、決して他人にはなり得ませんから) 読者が作家以上に幅広く考えてくれることが必要かとも思うのです。

  又吉氏の人柄には好感を持っていますから、今後も良い作品を送り出して欲しいと思います。
 
生け花、あんな本こんな本




 
   
 前の頁、日本史の謎は地形で解ける  次の頁、日の名残   VolV.目次へ  VolV.トップ頁 

 Vol.U トップ頁 Vol.T トップ頁