《私の本棚 第212》   平成26年10月号

     「高瀬舟」     森鴎外 作

 電子書籍リーダーという道具が出てきて気にはなっていたが、さりとて購入する踏ん切りがつかなかった。現代に生きているとは言え、本というのは紙でできていて、その紙の色さえも選択の範疇にある自分としては当然のことでした。
 最近、景品としてソニーのリーダーを頂戴する機会があり、それで読んだ初めての作品が高瀬舟。自分として違和感なく使えるかどうかを試すために、無料の書籍を十冊あまりダウンロード。小さくて軽くて何十冊でもいや、何百冊でも持ち歩けるということには感心するが、まだまだ何かしら違うという感じはしている。余談だがこの後ひと月ほどしてシャープの電子ノートを購入した。きっかけは電子書籍リーダーに付加していたメモ機能が気に入ったからだ。こちらの方は数学の公式と問題それから解答を記入して遊びに使っている。
 題名の高瀬舟が江戸時代に罪人を乗せて下ったかどうかは知りませんが、小舟の中での罪人と役人の立場や心の動きが良く対比表現されていて、人生を考えさせられる作品です。
 弟を殺した罪で遠島される喜助と護送する同心の羽田庄兵衛。庄兵衛は役人とはいえ下級役人で暮らし向きは楽ではない。満足という事を感じられない生活をおくってきた。一方の喜助は遠島の生活費として二百文を交付されてきている。恐らく僅少の値であろうが、喜助は人生でこれだけの金を懐に持った事は無いという。弟殺しとは言え、あまりの貧窮に持病で働けない弟が兄の喜助を思い自殺を図ったが死にきれず、懇願されて手を貸したまで。護送される喜助は晴々とさえしている。

  一応暮らしの立つ役人庄兵衛は満足を知らず、護送される喜助は満足という心境にあるという二人の心に気づかされます。
 
高瀬川、あんな本こんな本




 高瀬川
 
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